2005年6月2日

 詩 人

榎本 初によるのページです



   お吸いもの

 一月が終わる日の朝、雪が悲しみの上に積もっていました。お吸いものをつくることにしました。
 削り節を小さな袋から木のお椀に出して薬缶の口をよせて、沸騰した湯をお椀の四半分ほどそそぎます。鰹からにじみでる湯気はいささかの遠慮も知らないふうで、鼻腔の奥のほうからあたたまってきます。醤油挿しをほんの少し、ほんの少しかたむけて、とろろ昆布をちぎって、ほのかに酸っぱい匂いがするぐらいが好くて、削り節にひたします。再び薬缶の口をよせて、くちづけ。ほぐれていくのはお椀の中だけではありません。僕の中のわだかまり、宇宙の片隅のとろろ昆布。
 雪は、悲しみとともに、とけていきました。ごちそうさま。

                  二〇〇五年一月三十一日
ナカネコ!
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