2004年9月24日

 詩 人

榎本 初によるのページです



   東雲しののめろわぞぶる

 土の匂いの欠片すら落ちていない街の空に蟋蟀だけが鳴いていて、アラベスクの旋律から緩やかな色彩をもたらしている。やがて空は白ばんできて虫の声は消え失せ、時折、アスファルトを車の影が駆けていく。一枚のレースのカーテンが光を、半開きの窓から呼びこんで、玩んでいる。
 ろわぞぶる。男は、乾いた唇で何やら呟いて、ぐるりと首をまわす。琥珀色がボトルにわずかに残されていて、鈍い光を脳髄に射す。夕べ濡らした枕の陰に傷ついて横たわっているのは、幽かに歌っているのは、青い鳥。ろわぞぶる。彼の瞳にはいつも青い鳥が羽ばたいていて、匂い零れる世界がゆっくりと周っていた。宇宙の律動に祈り、七・五ヘルツに歌い、勇気の波動を呼び覚ましていた青い翼。
 男は、窓を開けきって、濡れた鳥を掬い上げて、象牙色の空に立つ。旭日の風を呼びこんで、静かに、彼自身の翼をゆっくりと伸ばす。絹の羽根が翔けていく天空、白いひかり。

                  二〇〇四年九月二十四日
ナカネコ!
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