2004年9月3日

 詩 人

榎本 初によるのページです



   入道雲

 一房の葡萄から太陽が溢れだしていて、街を抱きしめている。地平線が深呼吸をしている。入道雲のシッポに触れたくなって、少年は本を閉じた。
 少女が少年に頬をよせる。早起き少女のサンドイッチに空がやわらかく反射している。ポテトサラダと、たっぷりたまご。少女は籐のバスケットを左手に提げて、少年は、少女の白い掌を確かめて、ゆっくりと手を握って、地平線へ駈け出していく。少女の背中まで伸びた緑の髪が蒼穹を揺らして、擦れあって、少年は耳をすます。真夏の太陽を受け留めていく覚悟は、少年のものでしかない。足許に大地の息遣いが届く。地平線の始まりから、空気が、水が、光が湧き出してくる。
 白い入道雲は、いつだって地平線から生まれてくる。ポテトサラダと、たっぷりたまご。少年は、深呼吸をして、白い掌に触れて、離さない。

                  二〇〇四年九月二日
ナカネコ!
Copyright(C) 1998-2005 ENOMOTO Hajime. All rights reserved.