2003年10月1日

 詩 人

榎本 初によるのページです



   コスモスの空

 八月の残り香を昨日の雨にくして風が研ぎ澄まされている。項垂うなだれた少女がはっと顔を上げる。
 少女はコスモス色の、おばあちゃんの手編みのニット帽をかぶっていて、焦げ茶色の瞳を空へ捧げる。雲が碧く掠れていく、掠れて漣の花、花びらが頬に触れる。綻んでいった海の奥深く、乾いていく砂の匂いの染みた花びらをてのひらに置いて、てのひらをかぶせる、シルクに包みこむように。氷の粒が、砂のような星屑が袱紗ふくさから零れて散らされて、少女の身体からだの隅々まで行き渡り、澄み渡り、途絶えることはない。
 コスモスを掴んで強く強く放り上げて、少女が再び瞳を捧げる。解かれた花は絹の羽と重なり契りを交わす、星々の生業なりわいを忘れないように。一陣の風が少女の額に垂れた前髪を揺らしている。
 少女は花になる。空になる。

              二〇〇三年九月二十五日
ナカネコ!
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