2003年7月16日

 詩 人

榎本 初によるのページです



   ピアニカピアニカ

 空のやさしさにくるまれたい日に、水色の街の片隅で一羽の鳩が嘴を細やかに震わせていて、澱んだ空を見繕っている。男は紺色の麻ブルゾンを羽織り、鳩の影を曇硝子の裏側に置いてけぼりにして、星の譜面を探しに出かけていく。
 笹舟に揺られながら、ニンフが光を毀つ音に、耳を澄ます。稚い唇が夜空を歌い、短い指先が、れてドドソソラ、金や銀を鏤めながら小さな鍵盤を渡っていく。澱みを知らない瞳に広がるのは歓声に包まれた舞台だろうか、きらきらの少年が跳ねていて、白い半ズボンで跳ねていて、少年の空。
 膝の上に載せた水色の箱をそっと開けると男は、踊るのか、踊ることなどできるのか、立ち上がってサキソフォンよろしくスウィング。紺色の肩から光の砂を浴びながら、麻糸の目を透った砂金を振り落としながら浴びながら、夜風の情熱を奏していく、空へ。白い少年とともに奏していく、踊っていく、追って、追っていく空。

              二〇〇三年七月十四日
ナカネコ!
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