2003年2月24日

 詩 人

榎本 初によるのページです



   冬の烏

 乾ききった空は痛い。
 黒い、毛織のジャケツ。生白い猫が公園に踏み入ろうか躊躇うのを置き去りにしたはずなのに、見遣る果てに白猫が目を閉じて黙っている。ジーンズの男三十三歳。地に据えられた木のベンチへ、小石か砂か右手の指の腹で軽く払い落として、三時四十分冷たい体を落として、言葉を見詰めていて四時十七分。或いは僅か三十三画素のデジタルカメラ。
 欧風の風車はその羽の袂をかつて空が孕んでいた幾千もの雫で濡らしていて、古びることはない。赤い花、黄色い花が研ぎ澄まされた光に誠実に、なだらかな丘をゆっくりと回っている。一羽の烏が冷めた芝生の上を歩いていく、丸い胸を夕日に突き出すようにして、細い脚を交互に抛り出すようにして。雀は群れているようでいて、同じ夢を見てはいないのか。頭を弾ませて、土を啄ばむようにして、どの嘴も大地の懐を夢見ているのか。水浴びをしながら撥ねるのは飛沫か、烏か。ダックスフントを抱いた少女が何か叫んで、慌てた烏の翼はストールを纏うのを忘れて、忘れる。帯のような雲が掠れながら、潰れかけた太陽へ靡いている。
 烏が蹴散らしていく空は白い。

              二〇〇二年十二月五日
ナカネコ!
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