2004年1月1日

 詩 人

榎本 初によるのページです



  ゆうべ

それは二〇〇〇年十二月三一日の市営地下鉄
などという記号が付けられて頭の片隅冷蔵庫
に詰められて記号にはあたたかさなんてない
流れていない流れの中に留まっているのでも
ないきっと記号に意味などなく記号を付ける
という行為こそ肝要なのであっていや行為が
導く安心への執着がただあるだけで僕の脳髄
は執着しているという認識を放棄して喧騒の
街を放り出して鉄の洞窟へ駆けこんでいって
手摺りに背をもたれ掛け地下鉄の加速に肩越し
抱かれて左足の踵に右足の土踏まずを寄せて
提げていた鞄を床に落とすのではなく左肩に
掛けるでもなくカフカの短篇集を潜めている
と6つの顔の向こう側独り女の髪がコートの
ベージュに流れていてひろがって揺れていて
きっと暮れるまで踊っていたのだろう今にも
床に落ちそうで赤い襟巻の少女が声をかけて
ダイジョウブアリガトウと女の口唇くちびるが動いた
そう見えた女はまた揺れ始めたのを僕は別に
気にしない風でいてカフカが呼んでいるのに
気づかない風でいて月の光は閉ざされていて
1つの世紀が終わるという区切りなど無くて
区切りをつけよう僕がいて決意でありそれは
月の光への飛躍と何ら変わりはなくて女の駅
降りようとしてほほえんで少女は飛躍なんて
言葉は知らなくてただはにかんでいたりする

              二〇〇一年七月二十六日
なかない猫・バナー
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