2004年1月1日

 詩 人

榎本 初によるのページです



  ふきのとう

訳もなくふさぎこみいや本当は訳があるのだが
そんなことは言いたくなくてこんな日はただ
クラリネットのやわらかなひびきが好きだ
木は死んでいないのであってあたたかくて
衝き抜いてくるのではなく沁みわたってくる
モオツアルトの五重奏ラヂオがそそいでいる
不覚にも悪魔の指に押えられた瞼が救われる
ときにかおるのがコオヒイではなく紅茶である
のは大した理由などなくて実は紅茶に入れる
檸檬が沁みるだけで独つの円い闇の奥に独り
沈んでいく自分の姿すら見えない苦々しくて
枯れ葉を重ねていたのさえ疾うに忘れている

枯れ葉を探しに部屋を出た僕が着古した
ダッフルコオトの中で堪えられないのは
目を覆わずにいられないのは目を覚ますのは
鶯を誘い出す太陽の炎眩いというのではなく
ただ生きている青青としたひかりふきのとう

              二〇〇一年二月二十四日
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