2003年2月23日

 詩 人

榎本 初によるのページです



  夕焼け

僕は駅のざわめきの中に砕け散って
魂がグラグラのまま開くドアに落ちていく

失うものなど何もないなどというのは
おそらくまやかしの言葉でおまえ自身がまだ
ほらそこにあるではないかどうなんだ
などとこれは思考ではなくただ流れていて
頭の中の空洞がかつて歪んだへこみから
逃げられないまま閉まるドアに抗えない

焼けていく六時の空がドアに立つ僕の頬を
染めるはずはなくましてや目頭を燃やす
はずはなく実は日が落ちていくのは錯覚
なんだと気づいてはいても太陽を突き放す
などとでかく構えることのできない僕は
おそらく謙虚ではなくただ臆病なだけで
おまえなんかにかまってられるか愚図野郎
と街が列車を駆け抜けていく駆け抜けていく

こだまが追いかけてくるんだとひかりが実感
するのは例えば河のきらめきがひろがって
後れて一オクターブほど高くなった金属音が
響いてきた時でその時はただ感じている
だけでただ流れていて鉄橋の足許の水が
大海へつらなるなどとも考えていなくて
ましてやその水が紅色だなどということは
後れた想いが決めた染めたに過ぎなくて
打ちのめされて僕は暮れることすらできない
と呟くことすら恥ずかしいのだ
と真っ赤な宇宙が見抜いたのだ

              二〇〇〇年八月三十一日
なかない猫・バナー
Copyright(C) 1998-2004 ENOMOTO Hajime. All rights reserved.