1999年7月21日

 詩 人

榎本 初によるのページです


 猫は夕日を跨いで

  駅の198号

 なんとなくふらりと駅に着くと
 いつも198号がおいらを見てる
 家路を急ぐ3062人の人様の中の198号
 おいらの顔に何かついてるか?
 他の誰がおいらに気づいた?
 おいらが造った風景の中で
 198号は明日もおいらを見てる

  猫は夕日を跨いで

 凛

 日は
 迷うことなく
 名残惜しそうな素振りも見せずに
 西へと駆けていった
 赤が、橙が、青が、黒が、白が
 群がる空 焦がれて

 明日が終わり、昨日が始まる

 「詩人の生き方?
 そんなもの、ありはしない。
 『生きる』ことが詩なんだよ。」
 「『生きる』こと、現実。」
 「そう、現実、遊びじゃない。」

 ある 今日が ある

 時は幾重にも連なり
 涙は暖かく 止むことなく

  猫 渠 駅 〈ねこ かれ えき〉

 惜しみなく髭が伸び
 尾の端が転がる傍に
 限りない曲面が形成する

 壱つの労働が終わり
 巨大な有機的結合から解き放たれた
 壱個の認識が一閃する

 パウダースノー
 静かな駅

  都会の狭間

 日の落ちる頃、   ネオンの走る頃、
 男は        女は
 東麻布のバーで   歌舞伎町のクラブで
 バーボンを傾け、  言葉を傾け、
 会うことのない   煙を燻らす
 女を        男に
 待ち続ける     仮面を剥がない

 牡猫は       牝猫は
 裏小路で      路地裏で
 独り恋う      笑みを浮く

  涅槃西

   六つの太陽の背後から
 忍び込む
          突き刺す
    叩きつける


  猫の形をした空気の塊に
                  一刹那が
        連続を拒む

  歩き出した微分され得ない「僕」

 蕾が
 その重さに耐えられなくなる頃
 虻が走り
 蛙が唄い
 鶯が頬笑み 
 蜂が躍り
 子猫がはしゃぎ
 雀の子が笑い
 燕が滑り
 雲雀が舞い
 啄木鳥が奏で
 僕は歩く

 「僕」が歩く

 背筋を伸ばし
 胸を張り
 前を見て
 「僕」が歩く

  かはたれのキャットフード

 夕べ、男が入れていたね、
 背中に哀愁を漂わせて。
 キャットフード入れるのに
 そんなにカッコつけるなよ、
 なんて思いながら、
 部屋の隅で微睡んでた。

 今、男の瞼の重しが取れる頃、
 夕べの残りを腹に落としたね。
 おいら、
 丸い背中に、哀愁
 漂わないんだよ。
 違うんだ、
 カッコつけてたんじゃない、
 カッコいいんだ、男は。
 精一杯生きているんだ、
 男は。



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