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棚瀬一代先生のご厚意を賜り、
「離婚と子ども-心理臨床家の視点から」/創元社 より
一部を転載させていただける運びとなりました。
ビジテーション・センター(=支援)について、少しでも知っていただけたら幸いです。
また、是非とも 先生のご本をお買い求めいただけたらと思います。
よろしく お願いいたします。


5.面接交渉の制限とビジテーション・センターの役割
ビジテーション・センター   米国では、基本的に夫婦が別居あるいは結婚を解消した後でも、できるだけ未成年の子どもに両親との頻繁かつ継続的な接触を保証しようとする。したがって、両親の間に高い葛藤がある場合や暴力があった場合、あるいは親の一方が子どもに虐待行為をしていたとの訴えがある場合、あるいは親子が長く会っていなかったような場合などにも、非監護親と子どもとの面接交渉は、子どもの安全と福祉を守る形で制限しながらも継続していくことが長い目で見て「子どもの最善の利益」に適うと考えられている。こうした子どもの安全と福祉を守る形での制限として、「監督つき」での面接交渉があり、そうした面接交渉が行われる場として、「ビジテーション・センター」がある。監督つき面接交渉の場としては、その他に、監督者(親戚や知人)の家や市民センターなども利用される。第5章で紹介した事例1の面接交渉の場合は、児童保護局のソーシャル・ワーカーの事務所で、そのソーシャル・ワーカーの監督の下に行われていた。しかしビジテーション・センターは、より専門的なサービス提供の場であり、監護親と子どもにとっての安心感はより大きいと考えられている。ビジテーション・センターでは、面接交渉の監督サービス提供ばかりではなくて、面接交渉をする際の子どもの受け渡しサービスも提供している(詳細については付録資料を参照のこと)。例えば、配偶者間の暴力が原因で夫婦は離婚し、父親には母親への接近禁止命令が出ているが、子どもに対しては暴力がなく可愛がっていたというような場合に、父親が子どもとの面接交渉を望んだような場合に、第4章8節でも触れたように「監督つき面接交渉」という制限された形での面接交渉をという判決が出る場合がある。
 私は、2004年にサンフランシスコ郡にある全米から見学者がたくさん訪れると言われているラリー・ファミリー・ビジテーション・センターの運営の仕方を調査してきた。ディレクターからの説明を聞いた後で、センターを実際に利用している当事者(父母および子ども二人)の許可を得て、ワン・ウエイ・ミラーの背後から、父親と子どもたち二人の1時間にわたる交流過程を観察させてもらった。
 このケースは、父親には母親に対する接近禁止命令が出ている離婚ケースであった。契約時に配布して、事前に熟知してもらっているはずの「プログラム・ガイドライン、行動規則およびクライエントの責任」(付録資料参照のこと) に反するような不適切な交流がなされた時には、すぐにスタッフが中に入って行って注意する。このケースの場合も二度ほどこうした介入がなされた。一度は、「将来の生活上の取り決めや面接交渉の修正などについての約束を子どもにしてはいけない」「……子どもを失望させたりしないために子どもとの話や活動は現在に焦点づけるべきである」という規則に違反して「そのうちに、お父さんの家でまた会えるようになるからね」と語った時と幼児と小学校低学年の二人の娘に対して何度も、「お父さんの頬にチューしてくれ!」と要求した時だった。これは回避すべき行動の中の一つである「身体的接触への要求」に当たるので介入の対象になる行動と言える。
 こうした交流過程の記録は報告書として裁判所に提出され、その後の面接交渉の継続あるいは変更、中止等の判断の資料とされる。そもそも交流が子どもにとって発達阻害的であると監督している職員が判断すれば、即座に中止する権限を職員はもっている。また裁判所が報告書を読んで子どもにとって発達阻害的であると判断すれば中止されるし、また、親子の交流が非常にスムーズであり、子どもの最善の利益に適っていると判断される時には、センター外でのより長時間の監督つき面接交渉に移行したり、さらには家での監督なしでの面接交渉への移行といった判断もなされることになる。
 非監護親とのビジテーション・センターでの接触が、子どもにとってポジティヴな体験となるようにスタッフたちは、子どもとの関係の持ち方、親との関係の持ち方に心を配っている。子どもとの関係においては、関わり方、観察の仕方そして反応の仕方に気をつけており、親との関係においては、親の対人関係能力を高めるように工夫して関わることであると言う。またラリー・ファミリー・ビジテーション・センターでは、親プログラムも希望者には提供している。またスタッフが一番気を配っていることは、両方の親にセンターを中立的かつ公平な場所と感じてもらうことである。そのことが結果として子どもを継続して連れてきてくれ、また子どもに継続して会いに来てくれることにつながると信じているからである。  一回の面接交渉に要する実費は75ドルくらいであるが、連邦政府からの交付金(裁判所から交付)や個人企業からの寄付、その他の寄付金を集めることによって10ドルという格安でサービスを提供している。母親が非監護親であるのは2割ぐらいの場合であるが、1歳の子どもの時には、月、火、木、金と週4回も母親と会わせていたケースがあったとの話であった。


面接交渉の制限とビジテーション・センター
 上述したラリー・ファミリー・ビジテーション・センターで提供されているサービスについて少し詳細に見てみたい。(詳細に関しては付録資料参照のこと) このセンターの活動の目的・目標は以下のようなものである。
1)離婚後家庭が家族を再組織化する間ストレスの高い両親間の緊張を和らげる。
2)一人の親から他方の親へ子どもを受け渡すための安全かつ中立的な場所を提供する。
3)監督つき面接交渉のための安全かつ中立的な環境を提供する。
4)両親間の接触をなくすことによって、子どもの前での両親間の挑発の可能性を最小限にする。
5)それぞれの親と子どもとの継続的な関係性を提供する。
6)それぞれの親の注意を別居ないし離婚後の子どものニーズに焦点化させることによって
  より良いペアレンティングを促す。
7)当事者すべてを守るために、すべての面接交渉および受け渡しの状況を観察し、記録
  し、裁判所に提出すること。
8)面接交渉および受け渡しの間の虐待行動を防ぐことによって児童虐待およびDVのサイ
  クルを絶つこと。

 このサービスを受けることができる家族の基準は、まず第一に別居あるいは離婚後の移行期にある家族である必要があり、さらにその家族が以下のような問題を少なくとも一つは抱えていることが必要である (過去にそのようなことがあったとの記録があるか、現在、申し立てられている)。
1)DV、性的暴行およびストーキング、2)DVへの子どもの曝露、3)物質乱用、4)児童虐待の申し立て(児童保護局のケースではない)、5)子どもが非監護親と接触できない/子どもの疎外、6)接触欠如/面接交渉の再導入、7)ペアレンティング・スキルの懸念、8)誘拐の危険性、9)精神病の診断。
 また監督つき面接交渉のサービスには、以下の3種類がある。
1)センターでの監督つき面接交渉:クライエントが、センターのプログラム・ガイドラインおよび裁判所命令を守っている時には、スタッフがワン・ウエイ・ミラーの背後から監督する。しかし、過去に性的虐待歴があったり、その申し立てがなされている時、あるいは誘拐の恐れがあるような時、またクライエントがセンターのプログラム・ガイドラインを守らなかったり、あるいは子どもが非監護親と居心地悪そうにしている時などは、例外的にスタッフが部屋に同席できる。
2)促進的監督つき面接交渉:このような監督をするためには、面接交渉の間、健康な親子間の愛着に関してコーチングやフィードバックをするためにトランスミッターおよびビデオが親およびスタッフによって用いられる。録画されたビデオ・テープの使用は、教育的目的にのみ用いられるので、スタッフと訪問親がビデオをレビューした後は消去される。
3)センター外での監督つき面接交渉:センター外の種々の場所で、4時間までの面接交渉が可能である。スタッフは、緊急事態ないし面接交渉の終了の場合のために、携帯電話、裁判所命令のコピー、確認状のコピーおよびタクシーのクーポン券を持参する。このセンター外での監督つきサービスは、特定の時間帯に2家族までであり、1家族に対して8回まで可能である。この点は面接交渉の頻度(毎週、隔週、月1回あるいは3ヶ月に一度など)によって変わらない。
 受け渡しのモニター・サービスの提供は無制限であるが、監督つき面接交渉サービスの提供は3ヶ月ごとに裁判所で再審理がなされ、かつ1年間という制限がある。面接交渉の長さは1時間で、頻度は一般に週1回である。しかし3歳以下の乳幼児の場合には週3回まで可能である。  クライエントがこのプログラムを利用できるための基準は、まずそれぞれの親が個別にインテーク・オリエンテーションを終えること、最初の面接交渉の前に子どもがオリエンテーションを終えること、クライエント申し込み用紙を記入すること、裁判所命令/規定およびビジテーション・センター・ガイドラインを遵守することが必要である。
 ビジテーション・センターでの監督つき面接が裁判所によって申し渡される最も典型的な状況は、非監護親の子どもに対する性的虐待が申し立てられている時である。例えば、父親が娘と継続的に接触をもつことは子どもの最善の利益に適うことではあるが、娘を性的に虐待したことの証拠に照らしてみる時、監督なしでの面接交渉は子どもにとって発達阻害的な影響を与えるであろうとの根拠から、ペンシルバニア州の控訴審は、これまで続けられてきた泊りがけの面接交渉をやめて、監督つき面接交渉への変更を命じる一審判決を支持している。また父親が8歳の娘とその友だちを性的に虐待したとして罪に問われたケースで、ミネソタ州の裁判所は、二人のソーシャル・ワーカーと一人の医師の面接交渉に監督をつけるべきであるとの意見を取り入れて、このような制限を付することは、合理的であり、かつ娘の身体的および情緒的健康への危険に関する十分な証拠によっても支持されるものであるとしている。(Tortorella,1996)
 面接交渉を監督つきに制限するためには、性的虐待に関してどの程度の証拠が必要であるのかということは、控訴審が頻繁に扱わねばならない問題であるが、対応は州によって違うようである。親の面接交渉を制限するには一審裁判所は性的虐待に関して特定の証拠が必要であるとする州もあれば、子どもへの性的虐待が申し立てられている場合には、その結論が出るまでの間は面接交渉に制限を付すべきであるとする州もある。また裁判所の態度としては、実子への性的虐待行為が面接交渉に監督をつける十分な理由になるとするばかりではなくて、実子以外の子どもに対する性的虐待行為もまた証拠がある時には、実子に対する面接交渉に監督をつける理由になるとしている。(Tortorella,1996)
 また裁判所は、非監護親が子どもの安全ないし情緒的健康を脅かすような暴力的傾向を示す場合にも、監督つき面接交渉の命令を出してきた。ミネソタ州控訴審は、父親が母親と論議している間、ナイフを研いだり、冷蔵庫を壁にぶち当てたり、家の窓ガラスを割ったりすることによって脅かすなどの暴力的傾向を根拠に、子どもとの監督つき面接交渉を支持している。また監護親より非監護親に対してDVの申し立てがなされており、子どもへの福祉への危険度について調査が行われている間、一時的な監督つき面接交渉が言い渡されているケースもある。(Tortorella,1996)
 また裁判所は、親が精神的に不安定な場合にも、子どもとの面接交渉を監督つきに制限している。例えば、ニューヨーク州の控訴審判決(1988)によれば、母親が双極性感情障害を患っていた時に、監督つき面接交渉を命じている。またアラバマ州の控訴審でも、父親が心理的・情緒的問題を抱えており専門家のカウンセリングを必要としている状況で、監督なしでの面接交渉は子どもの最善の利益に適わないとして、監督つきの面接交渉を命じている。(Tortorella,1996)
 また非監護親が子どもを誘拐する恐れがある場合にも面接交渉を監督つきに制限している。こうした「恐れ」を判断する指標としては、その親の過去の誘拐行為がある。例えば、アイオワ州の控訴審によれば、母親が過去に子どもを非監護親である父親の元から自分の元に自助的方略によって連れ去ったことを面接交渉に監督をつける理由としている。またニューヨーク州の控訴審でも、監督なしの面接交渉が子どもの最善の利益に適うかどうかの審理前に、子どもが父親と二人だけになることへの恐れを表明したことと、また父親が過去に7ヶ月間にわたって子どもを連れ去ったことを理由として監護つき面接交渉を命じている。(Tortorella,1996)
 また暴力のレベルにまでは至っていないが、非監護親が攻撃的また非協力的行動をとる時にも、裁判所は監督つき面接交渉を命じている。そのような例としては、ニューヨーク州の控訴審判決がある。そこでは非監護親である母親が監護親である父親に子どもを対立させようと「洗脳」を試み、また自分の前配偶者に対する [悪意に満ちた憎しみ] に子どもを晒したことを根拠として、「自分の衝動をコントロールし、自分の行為が息子に与える影響について十分に理解するまで」面接交渉を監督つきに制限することは正当であるとしている(Tortorella,1996)。
 また非監護親自身の性的行為が子どもに悪影響を与えているような場合にも、面接交渉に制限を付することを正当であると判断している。しかしこうした親自身の性的行為による判断は、時には親の同性愛といった性的嗜好に対する差別にもつながる可能性があるので慎重な判断を要するとされている。例えばイリノイ州の一審判決では、レズビアンの母親と8歳の息子との面接交渉に監督をつけ、母親に心理療法を受けることを義務づけるように求めた父親の立場が支持されたが、控訴審では、息子が自分には母親が二人いるとして混乱しているような証拠は全くなく、「暖かく愛情に満ちた関係を母親ともっているばかりでなくて、母親のパートナーとも親密な関係をもっている」として子どもが母親と監督なしの面接交渉をしても発達上の悪影響はないとしている。(Tortorella,1996)
 上記に引用した判例のトーンから分かるように、米国では、基本的に離婚後も両親との接触を継続することが子どもの最善の利益に適うとの強い信念がある。しかし、無制限にそうした接触を許すことが子どもに害を与える可能性がある時には、直ちに禁止にするのではなくて、第三者の監督下にあるビジテーション・センターなどの「守られた空間」という制限の中で、子どもとの接触を継続していこうと試みるわけだ。こうした第三者の監督下の「守られた空間」の中でも接触ですら子どもに安全感を保障することができないような時には、面接交渉は、子どもの最善の利益に反するばかりでなくて発達阻害的であるとして一時的中止あるいは禁止という決定がなされることになる。日本においても、離婚後の親子の面接交渉を支えていくために、国や地方自治体が補助金を交付したり、企業が寄付をすることによって離婚当事者が安くビジテーション・センターを利用できるようにしていく必要がある。