友情

本になっている小説ってものには
あとがきとは別に
解説ってのが付いてたりなかったりしますね。
本作、友情にはそれが付いていたのですが
これに限らずのお話ではありますが
解説者さんに共感できない部分が多分にあり過ぎると
解説なんてものの必要性が分からなくなってきます。
俺を惑わすんじゃねえよ、と。


同時に
へえ、やっぱし人って同じものを読んでもどう感じるか
何をどう吸収するか
何処にどう感動するか
全然違ったりするんだなあ、と
楽しくもなります。


解説の書き方にもよるんですがね。


何にせよ本編とは関係無いしどうだって良いことですね。
さて、肝心の本編の方へ参りましょう。


これは主人公の野島
その親友である大宮の友情のお話。
時代なのか今でも文学青年達はそうであるのか(そうだと喜ばしいのですが)
色々と小難しいことを語り合ったり
意見をぶつけ合ったり
哲学やら政治やらなんでも兎に角熱く喋りまくるの羨ましい。
友達の仲田杉子は美しかった。
野島より七つ下で、無邪気であった。
野島は杉子を自分のにしたかった。
妻に相応しい女であってほしかったし
自分も相応しい男になろうと考えた。
彼女のどんな行動も、頭の中で無理矢理、都合良く
理想の女性像に当てはめていった。
杉子の近くには早川とかいう気に入らない男が居たし
彼女の兄である仲田は、妹を心配して妙な虫は寄りつかせないようにしていた。
野島はこの恋を親友である大宮にだけは打ち明けていた。
杉子の仲良しの武子は大宮の従妹で、大宮信者であった。
でも良い子だから野島にも優しい。
やがて野島、大宮、武子、仲田、杉子、早川の若者達は
共に過ごす時間が多くなった。
ちょっとしたことにも野島は一喜一憂した。
大宮はいつも野島を励ました。
実際、野島はとても慰められ、頼り、感謝していた。
が、この恋の障害となり得る最大の危険人物は
この親友殿ではないかと気付き始めた。
それで、大宮が外国へ行くと言いだした時、内心ほっとした。
ところが、彼がいざ外国へ行くという日の杉子の様子で
彼女の心がすっかり分かってしまったように思った。
それから
大宮が外国へ行ってから
野島は杉子に求婚してみたが断られた。
手紙を書くと、簡単な内容の、絶望的な返事が寄越された。
彼は海外の大宮に手紙でそれらを報告した。
ある時、大宮から手紙がきた。
僕たちを裁いてくれ、と書かれてあった。
某同人雑誌には大宮の告白があった。
此処までが上篇
こっからが下篇
杉子と大宮の手紙でのやりとり。
杉子は熱烈に大宮を恋い慕っており
野島の傍には一時間と居たくないし、死んでも妻にはならないと言う。
大宮は、もう一度野島のことを考えてみてもらえないかと言う。
杉子は、大宮が居なかったとしても、その時は寧ろ早川に嫁いでいたと言いつつ
自身の写真を同封する。
それでもまだ拒もうとする大宮。
が、遂に認めてしまう。
お互い、いつから互いを意識していたかとか
積もる話もそらあるよ。
もっと私のことを考えてくれないと私が可哀想だとか杉子は言いだしたよ。
大宮は、野島という人間は今回のことでますます鍛えられるだろうと言う。
必ず参りきりにならず、再び立ち上がる力強さがあるのだと。
天使よ、俺がために進軍のラッパを吹け」とはかっこいい台詞。
赤ん坊からの写真を全部おくれとか
大宮、今迄ずっと辛抱してきた所為か、なんて情熱的なんだ。
杉子は、よく分からんが恐らく、こういうのが可愛い女ってもんなんだろうなあ・・・。
にしてもこのやりとりを公にするって
大宮、思いきったね。
でも野島って名前も出しちゃってるし、ちょっとどうかと思うぜ。
野島が実際、打ち砕かれれば打ち砕かれるほど偉大な人間になるとしても。
そうした告白を読み終えた野島は大宮に手紙を書いた。
決して参りきりにならず起き上がる、と。
書き終えると泣いた。
泣いて、日記にこう書いた。
自分は淋しさをやっとたえて来た。
今後なお耐えなければならないのか、全く一人で。
神よ助け給え



この最後の文章が素晴らしくかっこいい。
僕は本を買う時は
冒頭部分と真ん中あたりをぱらっと覗いて
ラスト数行を読んでみるのですが
それで気に入ったから本作もゲットしたのですよ。
でも全部を読み終えてからの締め括りのあの文章は
格別でした・・・!!
がっがーん!!
持っていたこの本を手から取り落としてしまうところでした。
だって、なんでしょうね、救いのない性格というか
理想を求め過ぎる野島という人物に僕は然して好感を持っていなかったですし
それなのに、神よ助け給えまで読み終えると共に
ぐぐっと目頭が熱くなりまして
のじまあああああ〜ってなっちゃいました。
こんな気持ちでこの文章を読む為に、僕は本作を読み終えたのでしょう。
全てはあのラストの為にあったのだ、と!!
その鮮烈さがあまりに見事だったので
此処にこうして書こうと思ったわけです。


著者様は武者小路実篤、って凄いなあこの名字。
なんかのキャラクターみたい。
この方の書かれたもので読みたいのが他にもあるのですが
本作が非常に読み易く
文章の雰囲気も好ましかったので
よっしゃーますます読みたくなってしまったぞ!!


他に言いたいことは、実は特にないのです。
あるとすれば
杉子が怖い、異様に怖い
ってことくらいでしょうか。


そんな彼女もひっくるめて、登場人物の皆が皆
生々しい魅力でいっぱいです。
人間らしい愚かしさと身勝手さと淋しさと純粋さで満ちている。
ああ、皆、自分自身に正直であれ。
野島に残された絶望感こそが、文学だと思う。
彼はきっと乗り越えるだろうか、きっと、さあ
でもなんて甘やかな死の匂いを放っているのでしょう!!
ってなわけで
今夜は野島に乾杯であります!!


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