転落 追放と王国

僕の書いた詩に「王国の鍵」っていうのがあるのですが
それが良かったと仰ってくださった方よ
有難う御座います!!
きっとこんなところは読んでらっしゃらないでしょうけども
それでももう一回
有難う御座います!!
僕とは違う解釈を授けてくださった
そういうのが楽しい。


それとは一切合財無関係な今回の内容スタート。


僕の最も好きな外国の作家さんは、カミュです。
今のところそう断言できます。
どんなことであれ、一番好きなものをこれと断言できるのは凄いことだ。
だって好きな食べ物一つ
好きな色一色
即答できない、迷っちゃいます。
気分で変わりますからね。
でもカミュは
彼は別格なのです。


「異邦人」「ペスト」それから「転落」と、短編集追放と王国
これがカミュの描いた小説の全部。
あとは小説ではない作品。
なんてこった、淋しいな、もう全部読んじゃったのか俺は。
どうしたってこれ以上は、無い。
この少なさがしかし、なんか良い。


「転落」は元々「追放と王国」に入れる為に書かれてたけど
長くなりすぎちゃったから単独になったとかなんとか。
何にしてもこうして一冊にまとめられているので
いっぺんに読めちゃうから大した問題じゃあないさ。


では「転落」から。
自らを、改悛した判事、と説明する主人公が
酒場で会った相手に延々、自分がどんな人間でどんな風に仕事してて
何があってどう転落してったか、話しまくる。
つまり、現在進行形で起こる事件は何一つ無いのです、が
なんつ〜面白さなんだ!!


う〜ん、どうにも伝えようがないですね。
途中で、川に飛び込んだ女の話が出てくるのですが
主人公は助けに戻らなかったし
新聞も読まなかったので、彼女がどうなったのかも知らない。
小説の終わりに
再び娘が川に飛び込んでくれれば、今度こそ救えるかもしれない
というのを軽はずみだ、と
言葉どおりに受け取られればそうしなければならない、として
しかし心配無用!今じゃ手遅れだ。
これから先だって、ずっと手遅れですよ。ありがたいことに!

そう締め括るかっこよさ、うおお。


そうなんです。
思わず噴いてしまいそうな潔さで語る主人公ですが
噴いてる場合じゃあないんです。
段々、どうにかして彼の言う事を否定できないものか、と思っても
できない、彼は、殆ど正解だもの。
で、かっこいい表現がいっぱいで、うひょい!!


「追放と王国」は6つの短編で構成されております。
先ず一つ目、「不貞」。
ごく普通の有り触れた、満たされていない人妻が
見知らぬ土地で遂に寝室を抜けだし
夜の中で、感動的な感覚を体験し
夫の元へと戻る。
原題はどうだか知らないけれど
この話に「不貞」というタイトルってところがクールだ。


背教者」。
布教に赴いた地で、捕えられ、拷問された主人公が
現地の神に仕え、悪意の支配こそ唯一完璧なもの、と考えるように
自らをそうさせてゆく。
強烈な印象を残す話だ〜。
だからよく分からん田舎とか未開の民族の地へは
行ってはいけないんだって〜のに。
若さゆえの過ちどころじゃない、君、精神崩壊しかけているじゃないか。
いや、もうしてるか。
起こっている事柄で言えば
胸くそ悪いというか
映画にしろ小説にしろ
僕はこういう理不尽な暴力とか一方的な搾取とかが苦手なのですが
(だって、過激で救いの無い拷問描写目白押しみたいなのは
腹が立つじゃないですか!!
絶対にそのままで終わりたくないんだ僕は!!
復讐しなけりゃ気が済まないし
そもそも意味が分からん・・・なんでこんな目に遭うんだこの人達は?!って。
悔しいのは嫌だ〜)
なのですが
なのですがこれは面白い。
主人公が色々、超越したからかな。
僕の心に最もグッと来た文章は以下のものです。
ああ、痛み、奴らが私に加える苦痛よ、奴らの怒りは善い。
今奴らが私を八つ裂きにするこの台の上で、可哀想に、私は笑っている。
私は自分が十字架に釘づけにされるこの音が好きだ。

ぞっとするほど整った文章だ!!
訳者さん、有難う!!


唖者」(おし)。
ストライキがうまくいかず、要求の通らなかった労働者達は
再び働き始めるものの、工場主と口を利かない。
それは利かないのではなく利けないのであって
彼等が人間であったため、そうなってしまったのだった。
ところが、工場主の娘が倒れる。
そのことが労働者たちの心を僅かに揺さぶる。
僕はこの本では泣かずにいけそうだ、と考えていたのだけど
この話にやられてしまった。
といっても、泣ける場面が何処にあるのか?!
何も無い。
その静けさがいつも僕を泣かせるのです。
髪の乱れた工場主が、更衣室に向けて「さよなら」と言い
何か声をかけなければと主人公が思った時には
扉は締まっている。
そして心を込めて交わされる労働者たちの「さよなら」。
僕は、うう、泣いちゃうよ〜。
家へと急ぐ主人公は、あの娘のことを考えずにはいられない。
その時のこの一文
しかし、あの小娘もまた彼についてきていた。
がとても綺麗だ!!
更に最後の文章がまた美し過ぎて、どうしましょうか??
彼は若くなりたかった。フェルナンド(妻)も若くなってほしかった。
そうしたら、二人で出発しただろう、海の向こう側へ。



」。
教師である主人公の元へ、知人である憲兵が訪れ
この殺人犯をどこそこまで連れてゆけと言う。
其処に居る警察に引き渡せと。
主人公は食べ物と金を殺人犯に持たせて
遊牧民の居る草原への道と
警察の待っているであろう道とを教える。
殺人犯は牢獄への道を選び歩む。
教室に戻った主人公が見たものは、黒板に書かれた白墨の文字。
「お前は己の兄弟を引渡した。必ず報いがあるぞ」
これを誰が書いたのか、は、分からない。
カミュがどういうつもりでこれを書いたのかも、分からない。
これが、解くことのできない永遠の誤解なのかどうかも
僕はどんな風にも解釈できない(考えるのはめんどいからな)。
ただ一つ確かなことは
主人公にはもうどうすることもできない。
これほど愛していたこの広い国に、彼はひとりぼっちでいた。


ヨナ」。
ジルベール・ヨナという画家の半生。
善き友、善き妻、愛すべき子供達、集まって来る新たな友や弟子達、批評家・・・
狭い家に溢れる人々、電話は鳴る、手紙が来る・・・。
仮に、人生の教科書を作ろうと思うなら、これを必読課題としたいものだ。
芸術家も、そうでない人も、これを読めば恐ろしくなるんじゃないか。
自分の行いがどういったものだったか
第三者的視点から見詰めれば
きっと恐ろしくなるんじゃないか?
それとも、自分は当てはまってなどいないと、笑えるだろうか。
そんな風に笑う人こそが、この話に出てくる身勝手な訪問者その人なのだろうね。
ヨナが怒らなくても、僕は暴れるぞ。
と言いつつ
このお話の中には、僕も居た。
当然居た。
この小説からは誰も逃れられそうにない、と思う。
リズミカルで面白いうえにさらりとした書き方だけれど
ヨナは何も描けなくなってしまった。
彼はそれでも描こうとしていた。
悲しくなったのは、ヨナが描けなくなったからじゃあない。
ヨナが、それでも描きたいと願ったからなんだ。


生い出ずる石」。
仕事で訪ねた地にて、主人公は、原住民である男の信仰を助ける。
彼に代わって、糞重い石を教会まで・・・運ばずに
彼らの暮らす場所へ。
この主人公の行動の、説明できない感じが良い。
人間臭いってのは良い。


ふむ。
これで少し落ち着いた。
寝ようっと!!


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