異邦人

古書店にて、あらゆるタイプのこの作品と出会える。
だからもし仮に
我が家が火事になって今手元にあるこの本が焼失してしまっても
また新たに呼び寄せることは簡単だ。
なんと頼もしい事実か!!


だけど皆、どうしたっていうのか??
きっと全集とかをゲットしたので、とかそんな理由があるのだろうと信じたい。
僕はこれを手離すなんて考えられないよ。


言わずと知れたフランスノーベル賞作家、アルベール・カミュの世界的名作
異邦人。
つい、子供た〜ちは〜空に向〜かい〜、と歌いだしたくなりますが
この曲も素敵ですよね。


それはさて置き
僕は近年ようやくまともに本が読めるようになり
(それまでは、読書時強制睡眠症候群かと思うほど読めなかった・・・!!)
読んだ本は正直・・・ちょびっとしかありません。
なので
この本は僕の生涯におけるベスト・オブ・ベストだああああとかいったところで
いまいち薄っぺらい。
それにまだこれからも色々読むんだから(読みたいんだから)
ひょっとするともっと自分と相性の良い作品と出会うかもしれませんぜ。
それでも
本に触れ始めて間もない頃だったがゆえの
あの瑞々しい感動はもうどうやっても越えられないでありましょう。
当時、殆ど白紙であったその部分に
この作品は静かに静かに腰をおろし
ひどく透明な影を滲ませて去ったのです。
いや去ってないよ家の棚に居るよ。
兎に角、もう僕は当時ほど純粋に空っぽに本を読むことはできないだろうから
これを越える感動は有り得ないように思うのでした。


こんなくっそ有名な作品がめちゃんこ好きだなんて、かっこつかないですが
かっこつけてマニアックなタイトルを並べているより
素直が一番でしょう!!


きょう、ママンが死んだ。
世界で最も有名な書きだしの一つであろう偉大なる第一行目。
主人公ムルソーが、養老院で亡くなり
つまり彼は休暇をとってそちらへ行かなければならなくなった。
通夜埋葬を終え、週末、ムルソーはマリイと遊んだ。
それからよく働き、
隣人のレエモンに誘われ、彼の友人とマリイも一緒に、の近くで日曜を過ごすことにした。
その時、レエモンの抱える問題に関係するアラビア人
ムルソーはピストルで撃ち殺してしまう。
逮捕され、尋問され、独房で生活し
裁判が始まると
注目されている別の、親殺しの事件と妙に重ねられ
母の埋葬や何かのことが多く持ち出され
斬首刑が確定する。
そうして、その時を待つうちに
(物語中初めて)司祭に対して憤怒を爆発させた彼は
まったく生き返ったような気持ちになり
平和の訪れを感じるのだった。


↑こんな書き方じゃ誤解が生まれそうだから
不真面目な調子で適当に読み流してくださいませ。


この作品の、異常なほどにあっさりと、淡々とした文章が
僕を信じられないほど感動させるのである!!
何度も読んでいるのに
今またこうして改めて感動できる素晴らしさは何なのか!!


あと物語の長さが丁度、読み易くて有り難かった。。
当時、まだ読書に着手したばかりであった僕は
あんまし長いとそれだけで挫けてしまいそうだったので
(今でもそうですが)ほどよい厚みの、寧ろ薄い本を選んで読もうと試みていたわけです。
長くないうえに読み易く分かり易い文体は、僕を大いに喜ばせました。


ムルソーというのは、フランス語で、「」と「太陽」の合成語だそうだ。
正しく彼である。
何もかもを憔悴させるほど照りつける太陽の下
全て物事はその下で起こり
その光と暑さの描写がとても綺麗。
ややこしかったり回りくどかったり、また言い過ぎていたり、していない。
どんだけ同じ事いってんだよもう良いよ分かったよ〜ってならない。


ムルソーがアラビア人を殺してしまった日は
ママンを埋葬した日と同じ太陽でありました。
ほんとに、逃げ道はない
生きていると、そのように思われる状況の連続で日々は構成されている、と感じますが
僕はいつでも逃げ道を探し続けて諦めが悪いです。
しかもそれで見付かったためしがない。
色んなことでもって紛らわせてみても
やっぱり事実は事実として常に其処に立って僕を監視しているし
僕もまたそれの方をちらちらと、絶えず気にしているわけです。


貴方は変わっている、きっとその為に自分は貴方を愛しているのだろうけれど
いつかまたその同じ理由から貴方を嫌いになるかもしれない
と言いつつマリイは、結婚したいとムルソーに告白します。
この主人公は不思議に魅力的で
物語中に出て来る彼の友人達は、そんな彼に好意を寄せているのですが
普通一般的には理解され難く(だから異邦人なのです)
またこのようにしていては大変生きにくいものかと思います。
だって、正直に生きるってだけでも、大変だ。
つきたくもない嘘にまみれて日々、心は腐りゆく一方ですね。
それでもなるべく必要以上に偽るまいとすれば
普通はこういう時ってさ〜、とかって叱られ苦笑され馬鹿にされ
僕はもう謝る以外に何も言えなくなってしまいます。
ムルソーも本編中
これは言うべきでなかった、などと考えたりしておりますが
一言多いどころか二言三言多いうえに思慮浅くついでに利口じゃない僕は
彼の三十倍はそんな風に考えております。
いつでも後の祭りですがね・・・。


これ読んでると
ムルソーは可愛いし、無駄に喋ったりしないし、率直だし
静かで、安心感のある人物に思えます。
それはムルソー視点で書かれてあって
彼がどう考えているかがこちらに向けて明らかになっているからかもしれませんね。
でも何を考えてるかが分からなくても
愛すべき変わり者って印象で
第一、何考えてるか分かる人間なんてこの世にちっとも居やしないよ。
毎日あれこれ僕はびっくりしっ放しだもん。
反対に、相手を僕がびっくりさせることも少なくないし。
だけど、どうして一部の人々は
自分こそが普通と言いきれるのかな。
自分の周りに自分と似たような人が多く集まっているからなのかね??
完全に間違っているって事柄以外は
猛烈に非難したりおかしいと判断したり断固拒絶したりするのは
どうなのか・・・。


養老院に来た当初のママンがよく泣いたのは、習慣の所為であり
数か月経ってからは
ママンを養老院から連れ戻したなら、泣いたであろうとして
それもまた習慣の所為だ、とムルソーは考える。
これは(こればかりが全てでないにしても)正しいように思う。
ママン自身がよく言っていたらしいことだが
人間はどんなことにも慣れてしまうものなのだ。


此処に、サラマノ老人という隣人が出て来る。
サラマノはいつも皮膚病にかかったスパニエル犬を連れていて
「畜生、くたばり損ないめ」とその犬を罵っていた。
ところがいざその犬が居なくなってしまうと
歩きまわって落ち着かず、泣き、ムルソーに思い出話をしたりする。
別の犬を飼えばと提案すると
自分はあの犬に馴れ親しんでいたから、と答える。
ムルソーもこれに納得する。
う〜ん。
なんてことないようなエピソードが、なんでこんなに記憶に残るのか!!


逮捕された後の、マリイが面会に来る場面に
小柄な青年小さな婆さんが出て来る。
二人は見詰めあい沈黙していて、周りはとても騒がしい。
時が来ると、青年は「母さん、さよなら」と言い
婆さんは二つの格子の間に手を差し伸べ、息子に小さな合図を送った。
・・・これだけじゃあ何も伝わらないでしょうが
何故かぐっとくる場面なのですね・・・何故なんだ!!
他にもいっぱいあるちょこまかとした感動的部分は
どれも容赦なく、とてつもなくあっさりと通り過ぎてゆくので
きっとそれこそがこの感動の正体なのだと思います。
ずるずると説明過多にならず、ただありのまま、起こったことを述べるだけ(フィクションだけどね)。
だからこちらも素直に感動できるんじゃあないかな?!
こんなの考えてたって答えは出ないお話だ。


チェコスロバキアで起こったとある事件の記事が出て来る。
男が居て、金持ちになる為に村を出た。
二十五年後、本当に金持ちになり、妻子と共に村へ戻った。
男の母と妹は村でホテルを営んでおり、
男は二人を驚かせようと、一人で家へ行くが、母は息子と気付かない。
冗談に、一室借りることを思いつくと、男は金を見せた。
夜になり、母と妹は男を殺し、金を盗んだ。
男の妻が朝になってやって来て、そうとは知らずに男の身元を明かすと
母と妹は自ら命を絶ってしまった。
これを読み、ムルソーは
男はこのような報いをうけるに値した、と考えます。
からかうなんてすべきでないのだと。
うんうん、僕の姉もよく言っている。
からかった方が悪いのだ、と。
だってこっちはそんなこと知らないのだもの。
冗談じゃないか、と言われたって、それはそう知らされるまで、自分にとってはそうでなかったのだから。
けど人間って、いっぱい喜ばせようとして
意味もなくこんな冗談を実行しちゃったりする生き物ってところが
僕は嫌いじゃないよ〜。


僕が最も感動してしまう部分
証人台に立つ友人、セレストの場面ですね。
彼は、この事件は不運というもので、防ぎようのなかったことだ、と言った。
更にもっと続けようとすると、もう結構だと裁判長に言われてしまう。
セレストがムルソーの方を振り返った時
彼の目は輝き、唇は震えているようだった。
そうしてこう続きます↓
これ以上何か自分にできることはないか、そう私に問いかける様子だった。
私はといえば、一言もいわず、何の仕ぐさもしなかったが
このとき生まれてはじめて、一人の男を抱きしめたい、と思った。

・・・。
うおおお〜ん。
目頭が熱いよとても〜!!
昔は、本を読んで泣くって凄いよな〜どうすりゃそう熱くなれるのかな〜とか思ってたのに
その俺がこんなに熱く!!
いや〜今思えば僕だって
教科書に載ってた「スーホの白い馬」や「難破船」に感動してたよ、うんうん。
だからつまり、そういうことさ!!


セレストの後にも友人達が証言台に立ちますが
またしてもサラマノに感動させられてします。
彼は色々と言ったけれど、いよいよ誰も聞いておらず
「わかって下さい。わかってもらいたいものだ」と言っても
誰一人理解したとは思えなかった。
この「」の台詞だけでもって
サラマノは僕を感動させ得たのです!!


で、全ての感動は上手な翻訳のお陰なのであります。
翻訳家の皆皆様、有難う御座います。
同じ小説でも、どう訳されてるかによって、印象が大分異なってきちゃいますからね。
この異邦人が何パターンあるかは知りませんが
(或いはこれっきりかもしれませんが)
とても素敵です。
そりゃ〜できればそのままフランス語で読めたら最高でしょうが
五万パーセント無理です。
僕の脳味噌はポンコツだもの・・・もうこれ以上の知識は入らないよ!!


クライマックス、ムルソーは
わけの分からんことをくしゃくしゃ言ってる司祭に対して、明らかに苛立ち
そして何かが裂けてしまいます。
本当に、なんというクライマックス!!
僕は直接そういう司祭さんとかに会った事ないし
教会にすら行った事ないし
今後もきっとそういう方々と話す機会なんてないと思いますが
ありとあらゆる矛盾や恐ろしい思想について
各々がきちんとした解答を持っているのでしょうか。
あまりに縁遠い生活を送って来たので
一度くらいはちゃんとお話を聞いてみたいものですね。
さて
平静を取り戻した後の彼は、それまで、なんとか抜け道がないかと考えたり
特赦請願のことで頭がいっぱいだったりしていたのに
久し振りにママンのことを考え
そして、死ぬ間際の彼女のことを理解した。
世界を自分の兄弟のように感じ、優しい無関心の中で平和を得たのでした。
とこしえにアーメンって奴ですね。


ふう・・・。
書いてたらまた読みたくなってきてしまった!!
朗読の方で!!
今、「ねじの回転」を読んでいるので
それを終えたらもう一度さくさくっと、うむ、そうしようそうしよう。


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