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海月越しだから不確かだけど
弟が兄に殺されたようだ
黄昏の朱は弟を
宵闇の負荷は佇む兄を
呑み込んでった
土龍のように
明くる日の揺れる稲穂の番を
誰に頼んでもいないうち
金色の声がうら寂しげに
カイン、カインと呼んでいる








                                         紙細工の神殿
                                         裏側は空っぽ
                                         いつ見ても閉まっていた、あの扉
                                         それが開いている
                                         だけど裏側は空っぽ、なんだろう?
                                         僕は
                                         もうこちら側には居られないのか
                                         姉の鋏よ、僕の為に
                                         綺麗なお墓を切り抜いておくれ
                                         

                                            

     うわずって、雲を
     上塗って、肌を
     蹲って、報を
     男の手は桶のように深く丸く
     女の手は粉で真っ白く角々しく
     坊やの手は秘め事にさらされ弱々しく、君らしく
     そうか、君が取りに戻ったのは、これか
     忘れたと言って引き返し、帰らなかったのはこの為か
     僕等には、譲れないものがあった
     あんまり大切にしていたから
     力いっぱい抱きしめていたから
     ぐんにゃり変形してしまっただけだ
     今もまだ大切な筈
     どれだけ気味悪く歪んで見えても
     覆って
     うそぶいて、首を
     

                                         どっかの僕みたいな奴が今頃
                                         僕みたいなこと考えながら荷をまとめてる
                                         もう一個の地球が見付かったってそれは
                                         双子の片割れじゃなくて他人のそら似だもの
                                         直線上億万光年彼方のモーヴの惑星
                                         モーヴの王国
                                         モーヴの街並み
                                         モーヴの若者
                                         モーヴの泡沫
                                         あっちの僕みたいな奴が今頃
                                         僕みたいに欠伸しながら荷をほどいてる
                                         手伝ってあげられなくて悪いね
                                         でもそれは助けてあげるほどのことじゃあないよ
                                         どっかに僕みたいな奴が居るんなら
                                         竜巻く幸福に呑み込まれてしまえば良いんだ
                                         他の音を消し去ってまた大きくなろうとする
                                         足のすくむような思いやりの螺旋に
                                         

      丹誠込めて塗り上げた英雄像が
      ひとりでにひらひら
      そのマントの色を決めたのは僕だよ
      でもまるで予想外の翻り方をして
      知らない影を作ってる
      それは昨日
      コンセントにピンを刺し入れて
      奇跡を待ってた男の子の
      片方ほどけた靴紐だね
      深くて暗い、細い闇だよ

                                         龍の鱗一枚で解決するんなら
                                         僕をベッドに寝かせて
                                         うんと強い麻酔をかけて
                                         替えたてのカッターの刃で
                                         頭をざくざく切り開いて
                                         噴き出す夢をお盆に載せて
                                         調べてみてよ
                                         ほら君は
                                         田舎町のウェイトレス
                                         沢山の人を待たせてる
                                         それが君を苛立たせる
                                         龍の鱗一枚で解決するんなら
                                         探しに行けば良い
                                         西日に溶けてしまわないように
                                         気をつけて
                                         泳げば良い

      テーブルの上で再現される、今朝あった乱闘
      果汁100パーセント
      果肉500パーセント
      掻き集める少年が、勿体無いよ、と教える
      駐車場での果物狩りは中止、中止だよ
      慌てて係の人が出てくる
      増える
      警棒で西瓜割りだ
      よく冷えて冴えているから
      僕等はうんと美味しいだろう
      コンクリートはべたべただろう
      潔癖な君の制服も
      新調しないといけないだろう





へんてこりんなドッペルゲンガー
どうしてそんなに楽しそうなの?
合図を頂戴
会いに行くから
ベッドの中で入れ替わろうよ
僕に代わって毎日起きて
ママにおはようのキスしてあげて
約束してよ
ママを宜しく
寂しがり屋のママをお願い
僕はお休みのキスして行くよ
青いしましまのパジャマは脱いで
新品の麻のずぼんを穿いて
ミスター・ディスアームの後ろで
君のふりして
君の真似して
それじゃあ宜しく頼んだよ
ドッペルゲンガー
交代だよ




      夕波に漕ぎ出す絵空事の転覆
      踊り出た透明な女の子の転倒
      酔い潰れて盲目の老人の転落
      北欧から届けられた音楽の転調
      坊やの半身はいつも笑い転げている
      もう半身はいつもそれをそそのかしている
      

                                         煙った鳥籠、みんな逃げたの?
                                         誰か助けを呼んでるの?
                                         なんで静かで、じたばたしないの?
                                         やっぱりみんな逃げてったの?
                                         月曜日にはパトロール
                                         だけども煙って見えないよ
                                         月曜日にだけパトロール
                                         火曜になったら、もう知らない

                                         

      君が
      「大人になったら」
      って
      話すのが悲しい
      「大人になったら」
      また一緒に遊ぼうよ
      僕は君に
      一人じゃできない遊びばかり
      教えられてた







凶悪な栗鼠も善い栗鼠も
追いかけっこしている
僕の足下で
勝ちの無い遊びを
ぼんやり見る僕には
どちらがどちらだったか
分からなくなってしまった
「ねえねえ」
声を駆けると
片方だけ返事をくれた
「なあに」
お前は誰なの、って
訊かなくてもいいんだ
返事をくれたお前は
僕の優しい友達






                                         ふふ、と笑って
                                         風は
                                         子供達の両手を
                                         隠した
                                         まるで
                                         神様の悪戯のように
                                         

      容器いっぱいの灯油に呑まれて
      君の哲学は難破した
      残されたのは
      燃える我が子と明日の新聞
      











贈られた傘は一人用
僕等にはちょっと狭過ぎる
いいから君が入りなよ
僕にはちょっと優し過ぎる














      玉乗りの犬
      お上手
      わざとふらつく
      観客を煽って
      惹きつけてる
      さも健気
      足踏みで
      舌出して
      虚ろな手
      要らない手
      退化して
      消えてゆけ
      あの犬の
      汚い手




物音がするといえば
ざっくりとして大雑把な
抽象的な
未確認的な
得体のしれない表現だから
不親切だね
僕等は気持ちを奮い立たせて
あそこの倉庫へ行かきゃならない
何も無くとも
何かあっても
僕等が行かなきゃならないんだよ
物音だなんて
無愛想な言葉
含みを持たせた
ぺらぺらの言葉
いい加減だし
不親切だね
怪物みたいな、言葉だね







      地上の塩とは
      僕や君のことではない
      そうありたくとも

      鏡の国から伸びる手
      明るく白い、痩せた手
      折檻される塩の手
      
      バイブルバードの瞬き

      風は平原を舐め
      すぐ傍の君を呼ぶ
      この素直な花びらは
      そうして連れ去られた

                                          エッシャーでも描ききれなかった、不可能の要塞
                                          手を伸ばしてこじれて
                                          僕等は下を見上げる
                                          蛍のちらちら浮かぶ池なら、見たかった空に見えなくもない

                                          そうして待ち合わせ場所は見付からないけど
                                          誰と待ち合わせていたのかも
                                          何をしようとしていたのかも
                                          実は元から、はっきりしないことばかり

                                          この期待もなんておぼろげに返事をするのだろう

                                          ペンローズだって嫌気が差した、不可能の街並み
                                          振り返っては見失い
                                          僕等は上を見下ろす
                                          細切れの雲の浮かぶ空なら、見たかった海に見えなくもない

                                          それでは
                                          迷子の約束の向こうの、誰かさん、お元気で
                                          お元気で
                                          誰かさん
                                          お元気で

      鋭く尖った巨大なブラシを両手でしっかり掴むと
      君は汗水垂らして
      こびり付いた僕の不安を一心不乱に擦りだした

      首にかけたタオルで額を拭うと
      肩を回し
      再び、力の限り僕の表面を磨きだす

      君は君を陶酔させる術を知っている
      君は君がどうすればより良い人間になるかを知っているね

      前よりも深い溝ができて
      それはブラシの先端が食い込んだ痕なのだけど
      君は休む間もなく働き
      僕の不安は休む間もなく押し込まれて
      君は心地良い疲労に優越の笑みをこぼし
      お疲れ様な話さ
      僕は赤く腫れあがってる

      







酒場で揺れてぶつかる、照明、ピアノ、点滅

あの幸せを飼いならせたら、仔牛も、豚も、帰れる

お前は歌を歌って、私は手拍子で笑って

小人達もお休みよ

今日は誰も猟に出ない














      案内所へ駆け込めば
      もう安心といった顔つきで
      案内人の素性も知らずに
      君は
      なぞなぞの答えを探す気なんて無いんだ
      どっちみちいつかは
      誰かが教えてくれるもの
      君は
      典雅な構えで腰掛ける
      僕の
      焦燥の上に
      清潔で穏やかな
      呆れたような様子で









眠れる森へ行こうよ

そこで静かに時を流して
見も知らない夢を観ようよ

鶯は平和な寝息を歌ってる

棘は柔らかな瞼を守ってる

その薄い皮の下で
無邪気な眼球は深呼吸する

とても晴れやかな空の中にも
見付けた
霧がかって落ち着ける場所

眠れる森へ行こうよ

そこで静かに道に迷って
見も知らないベッドで寝ようよ

眠れる森へ行こうよ




      ささくれた思い出をつまんで引っ張って
      血が噴き出すまで
      いつの間にこうなったの
      知らない知らない、僕等は首を振る
      どこまで裂けるの
      知る為に力を込めても、怖いんだよ、痛いのが
      謝りながら僕等は祈りの言葉を繰り返す
      足下には注意を払わず
      頭上には屋根もなく、手の平もなく
      審判の日の七色の影と
      ささくれがまた増えてゆく









明かりはいつも僕等に沿うもの
か弱い勇気を励まして
引き金を引かせる

引き金はいつも僕等に問うもの
か弱い勇気に名前を与え
明かりを灯させる













      子供達はガムが好きだ
      チョコが好きだ
      車が好きだ
      花火は怖い
      絵本が好きで
      雪の日も好き
      たくさん好き
      いっぱいの好き
      全部集めて、織り上げるカラザ








靴を履け
靴音を鳴らせ
我々が来たのだと
勝利の朝を知らせに来たのだと
行進し
太鼓を叩け
人々に喜びが満ちるように
我々は今日から漸く
本当の夢が見られる










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