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クッションの上で弾んでいる僕の好奇心は
足取りも軽く、僕の頭上を越えていく

あらゆる予知夢
隣人の欠伸
花の散る音
過激な諷刺画
偶像崇拝
無政府地帯
産業音楽
裸足の子供

見飽きぬ世界の愛しい姿







      もう良いの?
      頭の上から声が降って来る
      僕は逃げ出す
      耐えられなくて
      自分とですら会話が出来ない
      それなのに、誰とどう喋れと言うの?
      満足は程遠い
      貴方の満足は
      朝、目覚めたら、別の僕になっていればと、そう思った事はあっても
      僕は僕を憎まなかった
      僕で居続ける事は首の骨がへし折れそうに気が進まないけれど
      地図を開いて、息を止めたら、何が見えるのか
      貴方は決して答えられない
      いつでも緊張していて、口の中は鉄の味がする
      僕の頭にどしゃりと落ちる
      もう良いの?
      僕は頷く
      もう良いの
      貴方にはきっと、聞こえやしないね






木曜日

僕は日に日に心がざらつく
雑音の中でも呼吸が出来ない

一秒の後にまた一秒がくる
その次の一秒も、待ってはくれない

粘土が床にぼとりと落ちる

どんな形をしていたか
誰も思い出せない






      僕は少しも恥ずかしくない
      でも悲しいから謝ったんだ

      僕は神様を信じてる
      でも君の知ってる彼じゃない

      神様はね、目がよく見えない
      見えているなら何を見ている?
      見るべきものを何故見ないの?

      それから彼は耳が遠い
      聞こえているなら何故答えないの?
      祈りが届く事は無いの?

      そして僕は彼に求めない
      彼は特別なんかじゃないんだから

      僕があの子を抱きしめて、頭を撫でて、あの子が笑えば
      なんて素晴らしいんだろう
      神様なんかにできっこないさ
      僕は少しも恥ずかしくない

      でも父さんは僕をぶつんだ
      母さんは急に泣き崩れるし
      お医者に診てもらいましょう、そう呟いてばかりなんだ
      なんだかおかしい光景だったよ

      でも悲しいから謝ったんだよ
      君もやっぱり泣いてたんだね




細い線の上を歩いてる
両手を広げ、バランスを取り

無防備な僕等が信じられる物って一体?

予感が目を覆えば、立ち止まるしかないけど
長くは居られない
細い、細いワイヤーの上だから

完結に酔えば穏やかに落ちて行けるだろうけど

語り継がれなくて良い

不格好な僕等もいつか
自らの意味を見付けられるから





      御免よ、と
      謝る事もさせてくれない
      僕は、余りに風が強くて
      悲しくて堪らなくて
      あんな事を言ってしまったよ
      
      そして君は
      遠い、君だけの国へ帰ってしまった
      僕を叱りもせずに
      
      テーブルの上に朝食の支度
      薄い水色の一輪挿しと
      でも其処に君の姿が無いのに
      なんて穏やかな朝なんだろう

                                  あの子は疲れてしまったんだよ
                                  両肩の重みに、遂に耐えられなくなって
                                  あの子は沈んでしまったんだよ
                                  八階に住んでいたのに、今じゃ土の下

      人はいつの間に一人になるのだろう。
      
      隣で笑う見馴れた貴方を、明日には忘れてしまう。
      
      贈り物をしても、
      交わす挨拶も、
      明日には失われ、
      遠く幼い日の父との約束や、
      母を手伝った思い出や、
      姉の優しさや、
      私の泣き声も、
      架空の出来事となり、
      全てはぐるりと一周回って、また戻って来る。
      
      また訪れる今日の日にも、私は同じ考えのまま、貴方に告げる、
      「会いたかった」と。
      



電灯がちかちかと、頼りなく点滅する

崩れかけの景色だ

少しだけど空が裂けて、空気が抜けて
喋る事すら困難だ

ベンチに座るあの人は、ニュースペーパーを逆さに読んでる

僕は急いでベッドに潜る

ラジオが内緒で鳴き続けてる

ラジオよ、聞いて
僕を守って
僕の心を抱いていて
世界が何度終わっても
それすら笑い飛ばせるように




      決めたがり屋の自惚れ野郎
      庭の蟻さえ支配したがる
      奴は病気だ

      仕切りたがりの善人気取り
      成程、道理で
      彼等の部屋は片付き過ぎてる

      殺風景な隔離病牢
      彼等の煙草は配給制

      奴がそう決めた
      奴がそう言った

      右手と同時に右足が出ても
      深刻じゃぁない、奴よりは

      毛皮のコートに乗らない車
      壁の名画に倉庫の鞄

      奴の自宅へ行くのなら
      募金箱をお忘れなきよう







真っ暗闇のクローゼット
押し込められて出られない

あと数回の呼吸を終えて
彼の世界は閉じてゆく

真っ暗闇のクローゼット

僕等が作った、霧の部屋








      満たされているのに、潰れてしまいそうな心臓が
      私に帰れと言っている

      私の背中を強く押し、行くべき場所を指し示す

      余りに容易い事
      絡んだ思考を解けば済むのだ

      なのにどうして動けずにいる私をいつか
      誰か
      故郷へ帰してほしい





180度、回ってみるんだ
君が決して見ようとしない
決して見ようとしない物が
燃え尽きようとしている
君のポケットの中には
マッチもライターも無いけど
火を点けたのは君だ
君なんだ、それから
君以外の皆や
僕も一緒だった
此処に立っている全員で
火を放って、逃げたんだ








      彼は、陶器で出来た芸術品に似て
      美しい手をしておりました。
      僕がその手にそっと触れると
      真っ白い頬に赤味が差して
      恥ずかしそうに伏せた横顔は
      羽化を待つ蛇に降る細雪。

      彼は、緩く捻れた金色の
      美しい髪をしておりました。
      僕がその髪をそっと撫でると
      睫毛の影が音も無く落ちて
      恥ずかしそうに結ぶ口元は
      艶めき薫る幼い水菓子。




祝日にはしゃぐ君
木こりの歌を陽気に歌う。

早送りして
あっという間に日は暮れて
あと半分だけ大掃除。

君が生まれた時の話をしようか。
それとも
君のパパとママがまだ若かった頃の昔話でも良い。

これからの事
今日より後の日の事は
止しておこう。

君を裁く神様は留守だし
今日は折角の祝日だから。



      変だなぁ
      君が、そんな所に収まっている
      周りを見て御覧よ
      皆ぼんやりしているだろう?
      花に囲まれた姿なんて!!
      よく似合ってると茶化しているのに
      まるで聞こえてないって顔
      おかしいなぁ
      こんな筈、無いのにね




事故の現場に白い花
僕等の飼ってた青い龍

低い声で鳴く
遊びたがってる

首輪の宝石をちゃらつかせて

高い声で泣く
あぁ、寝言さ

鋭い痛みで目を覚ましても
受け取れるのは白い花

僕等はずっと追い駆けてる
僕等の飼ってた青い龍




      使い捨ての歩兵
      揃って足踏み
      前にも後ろにも、同じ盾、同じ鎧
      倒れてる、あれは僕
      歩いてく、あれも僕
      暮れてゆく過程にしか美しさを見出せない
      もうこれ以上、僕等が此処で
      声を張り上げる意味も無い


無分別で不完全
そう呼ばれて嘲笑の的

僕等は底の見えない絶望と、何の根拠も無い希望とを同時に抱えながら
空を飛ぶ事だって出来る
夢を見る事だって出来る

理想や願望は僕等を、誰より高く舞い上がらせるけど
突き落とすのもまたそんな物達である事を
僕等はよく知っている

従うべき法と、そうでない法と
僕等はよく知っている

残り僅かとはいえ、自尊心は厄介者
僕等を監視し、僕等を操り
いざという時に僕等を裏切り
縋りたくても頼りなく脆い

科学から離れ、別次元での答えが欲しい
咽び飛ぶ僕等、春に焦がれる

      日が暮れると、お腹を空かせて子供達、帰って来る
      食器棚に死んだ小鳥
      落ちて死んだ
      どうして、どうして
      歌う親鳥
      もうじき皆、帰って来る
      花冠の御姫様だって、ミートパイを楽しみにしてる
      コーヒーカップに死んだ小鳥
      子供達はそう、気にしない

                                  土が言う
                                  私の事を知らない、と

                                  あぁ、私は漸く辿り着いたのだ

                                  これからは
                                  呼吸をするのに舌が縺れたり
                                  瞬きの度に緊迫感が加速したり
                                  そんな悩みはどれも解消されるのだろう

                                  良かった、良かった

                                  もう迷子と呼ばれる事も無い

                                  木々の波間を縫うようにして
                                  私は此処へ来たのだから

      口をぽかんと開けてテレビに向かう彼の姿に肩を落とす。

      どんな話も通用せず
      暫くすると大声で、思いついたかのように別の話を始める。

      これは悪い夢なんじゃないか、と、食卓の上の屈託の無い花に視線をやるけど
      間違いなく
      昨日、君が飾ったそれである事を
      確認するだけとなる。



問い質したのは白い髭の

白い髭で体の大きな

大きな手をした

杖を持った

黒いコートに

黒い帽子の

一瞬、死神に見えてひやりとしたのは

白い髭の

耳の尖った

僕が見たのは


      だってこんな晴れた日にも、君の手には剃刀
      そんな物騒な物を持って、何をするつもり?

      心配なんてしなくて良いんだ
      君の弟も妹も、皆、大丈夫なんだから

      美味しい物は食べられなくても
      綺麗な服は着られなくても
      祈る方角を見失っても
      泣きたくなる事ばかりでも
      大丈夫
      明日、銃弾に倒れても

      心配なんてしなくて良いんだ

      嘘吐き、嘘吐き
      僕等の手にも剃刀を
      僕等はもう、平気じゃないんだ



階段を降りた所で知った
君は盗んだ
僕の「罪悪」を

僕は嫌いになる一方
自分への嫌悪で腹が膨れる

君はどうして言ったのだろう
大丈夫だ、と
全て大丈夫なんだ、と
何もかも上手くいく、だなんて
そんなの有り得やしないのに

階段を上った所で知った
君は盗んだ
君の「困惑」を

全て大丈夫なんだ、と
今度は僕が言う番なのか



      世にも恐ろしい妄想とは、それがそうとは気付かないもの。
      現実の中に息を潜めて、少し少しずつ滲んで広がる。
      それがどうして恐ろしいのか。
      薬みたいに馴染んでゆくから。

                                  増え過ぎた物は減らすように
                                  消えゆく物は保護するように
                                  祝福はちっとも、平等じゃあない

                                  生まれ落ちても認められないなら
                                  意味を探す事すら許されないまま
                                  時が止まるのをじっと待つだけ

                                  怖ず怖ずと、でも確実に、君は離れゆく
                                  振り返りながら逃げるように

                                  君には君の事情があって
                                  救いを求め続けてた

                                  見せかけの優しさじゃあなく
                                  君がずっと欲しがっていた
                                  揺り籠を揺らす手

      嵐の中を貴方は
      殆ど役立たずな傘を片手に、立っている。
      途方に暮れるでもなく
      果てしなく希望的な口元を
      もう片方の手でそっと隠した。
      
      悲しい時はそのレコードを
      嬉しい時はあのレコードを
      貴方は自分をよく知っている。

      幼き日の宝物は、もう失われてしまったけれど
      代わりに黒いペンキと
      黒い傘を手に入れた。

港が在った。
魚の生々しい腐臭が漂い、普通とは違う様子に思えた。
けれど彼等は言う。
「いつも通りだ」と。

工場が在った。
煙は空も人々の肺も黒く染め、地の割れるような音が響く。
けれど彼等は言う。
「いつも通りだ」と。

皮が裂けて血が噴き出しても
「いつも通りだ」と。

合図を待つ浮浪者の群れも
「いつも通りだ」と。

斑に明けた夜の教会も
「いつも通りだ」と。

吠える声を奪われた子供達に、崩れた果実を与えながら
彼等は言う。
「いつも通りだ」と。



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