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   雨宿りしよう

   街中、魔法が掛かるから

   世界はぼやけて、滲んで、揺らぐ

   通り雨の下

   彼女は戻る

   置いて来たのは

   キャラメルみたいにほろ苦い目だ

   海の上の国、空に浮かぶ島

   聞いた事しか無い場所へ急ぐ

   キャラメルみたいでほろ苦い目は

   彼女にとても、似合っていたんだ


                                                                       寄り道せずに帰ったらすぐに

                                                                       今日言われた事をビニールに包む

                                                                       漏れないようにしっかり結んで

                                                                       テープでぐるぐる巻きにして

                                                                       それをミキサーに突っ込んでから

                                                                       リビングのソファでちょっぴり眠って

                                                                       庭の花壇にばら蒔いてやる

                                                                       もう喋らない

                                                                       彼との会話はビニールの無駄

                                                                       勿体無いので、もう喋らない

      郵便屋さん、午後の来訪

      君が修理に出していた物

      君が修理に出していた物

      折れた鉄の板

      折れた木の棒

      折れた傘の骨

      折れた君の爪

      切ったら貼ったら出来上がりそうな

      安物アパート8階の部屋

      折れた花の茎

      折れた椅子の脚

      折れた紙の端

      折れた君の腰

      どんな顔していたっけ?

      どんな声していたっけ?

      君が修理に出していた物

      受取口が狭過ぎるんだ

      玄関前に置き去りだ

                                                               貴方は気を付けられない

                                                               それに対する考えは、抜け落ちてしまったから

                                                               抱えている華やかな痛みを手離す事が出来たなら

                                                               あの子の祈りに終わりが無くても

                                                               上手く口笛が吹けるのに

                                                               頭の中に余白が生まれて

                                                               歓声が降り注いでも

                                                               貴方は萎れている

                                                               貴方は萎れている



      聞き飽きてなんかないよ

      だから続きを聞かせて

      どうしていつも途中でやめてしまうの?

      締め括る一文でさえ億劫だとしたなら

      先に席を外すのは

      多分、僕の方だね


                                      分厚い辞書を片手に携え、君の話を聞きに行く

                                      目と鼻の先

                                      歩幅一歩分

                                      それでも地図が必要なほど、複雑だから気を付けなくちゃ

                                      移動式巨大テーマパーク

                                      何度目かの初めてを経て

                                      今でも絶えず緊張している

                                      君の言う事は一々、なんて難解なんだ!!

                                      しかも引用じゃないときたから、僕は到頭お手上げさ

                                      君はオリジナル

                                      全てオリジナル

                                      僕の悩みは、歩幅一歩分

      白い服を着て教会へ

      出鱈目に怒っていたのは、もう昨日の事

      今日は、ほら

      底が抜けた様に晴れやか

      利口で立派な学者さんなら

      君を数式に表せるの?

      解らないよ

      優しい春の風でさえ、桜を散らせてしまうのに

      傍に立てば僕ら、また傷が増えてゆく

      白い服を着て僕も教会へ

      だって君は晴れやか

      今日はきっと、大丈夫

                                      裏のガレージに在る開かない箱は
                                      本当は開くんだけど
                                      開かないという事にしてる

                                      そっちの方が良いんだ
                                      だから僕は開けない

                                      裏のガレージに在る開かない箱は
                                      明日には開いてるかも

                                      開かないという事にしてた
                                      そっちの方が良かった
                                      開かない方が
                                      だから僕は開けない

                                      だけど君は開けるかも

                                      開けた方が良いんだ
                                      本当にそう思ってる?


      空白が在るとしたら

      多分、此処がそうだよ

      罅割れた鉄塔から、甘い絶望を見渡す

      鳩の群れは、其処に収まる

      宝石で彩った木彫りの偶像に

      頭を抱えたの、僕ら、窒息する

      聖書に虫食い穴

      ポケットの睡眠薬

      全てはもう、治まるね

      喝采の中

      真っ直ぐ歩ける日が来たら

      全てが治まるね


   もっと、閉じ込められた時に叫んで、呼んで

   胸が詰まるほど責めて追いやって

   崩れた体でこの丘、足の踏み場も無くなる

   呆れるくらい降り続くのが、塩辛い雨でも

   浴びれば良いのさ

   あんたはこう言う

   「その内、慣れるさ」

   平気で怖い事を言うんだ

   その内、慣れたら、僕は僕が嫌いになるよ

   とっても恐ろしい事なのに

   あんたは忘れてしまったのさ



      あそこに見えるのは、僕らが立てた旗

      僕らの中には小さく、悪意が灯ってる

      随分と遅くなったけど、吹き消してしまおう

      金曜の午後の夢に、銃口が見えても

      僕らはもう平気な筈

      猫撫で声の正体も

      脈打つ地下の怪物も

      全部全部、吹き消そう

      僕らは旗の下

                                     君は不器用に食事する
                                     口元を手で隠しながら
                                     ほんの少しずつ
                                     噛み砕いて、飲む

                                     それを眺めている僕は
                                     幸福の中に突っ伏している
                                     幸福の中
                                     幸福の中で
                                     君への手紙を書き直してる
                                     「初めまして」を飛び越えて

                                     まだ分からないの?
                                     僕等は光の中に居る
                                     幸福の中に立っていて
                                     幸福の下で守られて
                                     僕等は光の中に居る

                                     なのにどうして泣くんだろう
                                     僕等はどうして泣くんだろう

                                     目の前に在るナイフとフォークに
                                     どうして手が届かないんだろう

      やぁ、君

      其処の電気を消してくれ

      何か言いたげな顔してるけど

      早くしてくれないか

      誰かが勝手に点けて行った

      なんの断りも無しに

      なんの断りも無しに勝手に

      吠えてた犬も静かになって

      下階の子供も眠ったようだし

      やぁ、君

      其処の電気を点けてくれ

      何か言いたげな顔してるけど

      早く電気を点けてくれ


   御近所さん、戸締りを忘れているよ
   なのに子供達は出て来ない
   一人も顔を出さない
   空き家だったかと疑うほどに

   あの家、命日なのか
   花でも供えようか
   玩具を置こうか

   あの家、命日なんだ
   食卓には何も並ばないし
   くたびれたテーブルクロス
   取り替える人も居ない

   少し前までは
   叫び声や笑い声が聞こえて来たのに
   庭の手入れも行き届いてたし
   少し前までは、少し前までは

   あの家、家とは呼べないよ
   そう呼ぶには欠け過ぎたから
   余りにも足りてない
   家と呼ぶには、余りにも


      ジオラマ、張りぼて

      足下の国

      此処では空も広くないから

      もう怖くない

      もう怖くない


                                                                            引き留めなければ

                                                                            端から順に逸れてゆく

                                                                            そして貴方は見送ってしまう

                                                                            手を振り羨ましそうに



      なんてこと無いさ

      くたばっちまえ

      中指を立てて吐き捨てたなら

      世界は突然、逆回転

      おろおろするな

      お前の覚悟が試される

      きょろきょろするな

      誰も助けてくれやしない

      誰も守ってくれやしない

      いちいち泣くな

      喚き散らすな

      お前の覚悟が、試されている

                                                                             親指の子、話を逸らす

                                                                             人差し指の子、目を逸らす

                                                                             僕は一人で爪を噛んでは

                                                                             パイプオルガン、響かせる

                                                                             街に溢れる引力と

                                                                             街の外にも引力、引力

                                                                             薬指の子、恍け続ける

                                                                             小指は小指、友千鳥

                                                                             僕は一人で爪を噛んでは

                                                                             右の目玉を弔っている




   くっきりとした影は、切り絵みたいだった

   インスタントの植物園

   3つ数えて園内へ入り

   5つ数えて園外に出る

   君が笑うのを見た気がしたんだ

   切り絵みたいにくっきりと

   色付きの影を身に纏ってた

   僕の名前を

   呼んだ気がした





      金魚みたいだ、君。

      真っ赤な。

      小さい時にお祭りで見た、あの

      真っ赤な。

      結局

      お小遣いを使い果たしても掬えなかった

      鮮やかな赤。

      この街は君にとって

      息苦しい水槽。

      もがきながら泳いでたね。

      僕はまた、掬えなかった。

                                                                          街路樹の傍に佇むあの人

                                                                          あと暫くは、同じ話を続けそう

                                                                          うんざりせずに聞いてあげてね

                                                                          あの人と、明日は会えない

      優しさを忘れてしまえば

      どれだけ悲しい事でも言えるよ

      それはブリキの兵隊

      ゼンマイ仕掛けの心臓

      腫れ上がった左手も

      怖くない、怖くない

      あぁ

      誰の事も

      僕は

      分からない、分からない

      耳元で鳴る螺子を巻く音

      いつか張り裂けてしまう迄

      白い呪文とブリキの兵隊

      こっちを見ている
         

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