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   上げる必要も見当たらないので、下ろしていた右手の小指を

   誰かが弱く握ったのです

   不思議に思って「だぁれ」と訊いても

   答えてくれずに貴方は、只

   蹲っておりました

   砂の上に小さな石で、円を描いては掻き消している

   その指先の砂粒ほども

   貴方が私を想わなくても

   少女のように幼いその手を

   私は弱く、握ったのです




       割れた鏡を見ては駄目だよ

       良くない事が起きるから

       なんだ

       それなら心配要らない

       良くない事など既に起きてる

       抜け穴探しに夢中の君を

       無数に映して電気を消した

       僕に出来る事って言ったら

       本当にそれだけなんだもの






   剃刀みたいな君の優しさ
   一つは僕に
   一つは彼に
   残りは全部、オーブンの中に

   兵器みたいな君の優しさ
   一つは僕に
   一つは彼に
   残りは全部、トランクの中に

   許すとしたら世界中が、そう
   プランクトンさえウィンクしてる

   とうとう僕も観念をして
   デジタル時計を部屋に置く




       鮫肌の彼女

       水玉の彼女

       飛び降りたのはバレリーナ

       紙切れを模して

       落ち葉を模して

       くるくる回る

       バレリーナ

                                                                   捧げましょう

                                                                   供えましょう

                                                                   車輪の下に花言葉

                                                                   遅過ぎたのではなくて

                                                                   足らなかったのでもなくて

                                                                   正直過ぎたあの人の

                                                                   純粋過ぎたあの人の所為

                                                                   愚かだ、と

                                                                   誰が貴方を笑えるのか

                                                                   貫かれている

                                                                   貫かれているのに


       溢れ出しているので

       彼女の手の中のチョコレートを取り上げてしまいたいのですが

       方法が分からずにいるのです

       説得しようにも

       彼女のパパは霧の向こう側

       彼女のママは寝込んでしまって

       僕は途方に暮れているのです

   暗号を使う内緒の会議が気になって
   夜更かししたんだ、昨日の事

   母親は言った
   貴方は余りに小さくて
   そして余りに知らないの

   舞台裏の木箱の中から
   聞き覚えのある声がする
   何かを一つ知る度に
   君は一つ臆病になる

   証拠に、御覧
   足を引き摺る案山子の群れを

   君もああなる
   すぐにああなる

   肌触りの良い絨毯の上
   寝転んでみても目は冴えたまま
   昨日より一つ
   臆病になる


       大きければ大きいほど目に入る。

       大きい物ばかり気になる。

       胸を痛める。

       目の前に横たわる温もりは

       救われる事も無く忘れられていくのに。

       遠ければ遠いほど手を伸ばす。

       すぐ傍に転がる

       石ころみたいな灯火。




   彼女は、知っている、と、言った
   それは嘘だと思った
   何を知っているのと訊いたら
   何でも、と、言うのさ

   彼女は、知っている、と、言った
   それが嘘だと分かった
   灰色のチケットを握って
   さぁ行こう、と、言うのさ

   何処へでも行ってしまえ
   光の射す方へ
   そんなに近付いてるのに
   どうして眩しくないんだろう
   僕は行かないよ
   目が潰れそうなんだ
   これ以上、進めないよ
   彼女は、大丈夫、と言った
   それは嘘だと思った

   彼女の目はぐしゃぐしゃで
   何も見えてはいないのさ

      貸していた本と一緒に返って来た言葉

      それが僕をこんなにも驚かせるのに

      君はまるでついでの事のように言った

      こんなにも震える手を握ってくれずに

      まるで架空の物語を話すように、君は


                                    頭の中に浮かんだ言葉を並べて、しりとり

                                    絶対、とか、必ず、は

                                    錆びた嘘

                                    縛りたくて怖くなって、結んでる約束

                                    取り替えっこ

                                    笑って、順番ずつ走って逃げて

                                    あぁ、或いは見付からない

                                    埋まって沈む太陽

                                    肩越しに鳴き声

                                    頭の中に浮かんだ、錆びた色の約束


       あらゆる喜びの内、一握り

       触れられない

       貴方は

       救いたかった全ての名前を知っている

       飴細工の船では

       これ以上とても進めない

       あらゆる憧憬の内、一握り

       曲げられない

       これ以上とても、渡せない




      来た道を辿れば、摘む事も出来るだろうか

      歴史上の人物達を教科書で習うように

      至極、当然

      と、言った風に

      さて、どうだろう

      もうじき点になるほど遠く

      彼方に、薊の花



     大丈夫だよ

     泣いたって

     今は泣いてて、また明日

     上手くお喋り出来なくても

     大丈夫だよ

     僕は

     そう言って欲しかった



                                       聴き間違えた
                                       アコーディオンだ
                                       あれはアコーディオンの音だ
                                       幽霊屋敷に回転木馬
                                       君の欲しがる物ばかり
                                       御覧よ、もう寂しくないさ
                                       はしゃいで向こうへ
                                       黒いテントに赤い鼻
                                       君の休日は君の落日
                                       凡そ考えも及ばない国
                                       君と僕とで祝福すれば
                                       これからはずっと、寂しくないね





     君はまた裏切られた気がしているね

     ホタルイカはなんて弱い光を放つんだろう

     それは今度、話せば良い

     それは今度また、話そうね





                                    「思いやり」を口にする時
                                    彼女は
                                    あぁ
                                    真実味を帯びている

                                    重苦しいだけの冷たいジュースなんて
                                    何の肥やしになるって言うんだ
                                    
                                    それを放り投げたら
                                    少しは楽になるのに
                                    望んではいないの

                                    水族館に出るのは魚の幽霊なんだって
                                    君はどうでも良い事ばかりを知り過ぎているんだ





      白いチョークで、貴方は

      線を一本、引いた

      境界線の向こう側

      貴方はあっちに、僕はこっちに

      水を撒いても

      流れてゆくのは気持ちだけ

      弱々しくてか細い線は、消えずに残って

      引き裂いたまま




                                                                

                                    はぐれた雲はスローだ。
                                    流れているのか、どうか。
                                    僕の視界から消える頃には
                                    あの子を連れて帰って。

                                    きっとだよ。
                                    連れて帰って。

                                    傘を持たずに出て行ったのに
                                    まだ帰って来ないなんて

                                    おやつの時間を過ぎたのに
                                    まだ戻らないなんて

                                    あの子を連れて帰って。
                                    好きなラジオの時間なのに、戻らないなんて。

                                    きらびやかな絵空事
                                    革製の童歌。

                                    あの子
                                    きらしていたバターを
                                    買いに行ってただけ、じゃあない。





      しゃがれた貴方の発想で

      僕は手摺りを掴み損ねた

      貴方は少しも気にならないの

      ほんの少しも

      これっぽっちも

      哀しくなるには及ばないけど

      貴方の睫毛は酷く無邪気だ

      その様はとても歪んでいたよ

      ねぇ、お嬢さん、歪んでいたよ






      セメント樽、遠巻きに見ている

      赤茶けた王子様、中から手を振る

      大切な回路を束ねていた

      か弱過ぎたゴムは千切れていた

      はにかんで隠れてしまう

      帽子越しに撫でる事すら

      針の海、釘の海

      誰も泳ぎきれない

      「退いて」と言ったら彼は

      飛び降りてしまった









    風邪をひくから、おいで

    其処はあんまり冷えるから

    君は寒いと言いながら、外で跳ねてばかり居る

    毛布を肩に掛けてみたって、なんにも言ってはくれないけれど

    蒼い唇に赤みが差して

    ようやく僕を安心させる












         砂糖で出来てる僕の心臓

         君が噛み付いた

         ざらざらしてるね、と、君

         そりゃあね、と、僕

         砂糖で出来てる僕の心臓

         君は噛み砕いた

         とっても美味しいね、と、君

         僕は沈黙した








      飼っていた犬も鳥も、貴方が庭に埋めるので

      客人は誰も来られません

      土で汚れた手のままで、こちらを向いて微笑んでいる

      貴方の庭に、貴方は一人

      今も仔猫を埋めたところ

      ところで僕は、そちらへ行こうと思います

      貴方の庭を踏み荒らしてでも

      貴方を抱き締めたいのです




             

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